製造業の生産性を向上させる方法とは?活用できるツールや具体的な手順について解説
少子高齢化による労働人口の減少により、製造業は今まで以上に人手不足が深刻化することが予想されています。また、市場のグローバル化によって競争が激化しているにもかかわらず、日本の時間あたりの労働生産性は年々低下しています。
人手不足の加速、労働生産性の低下という悪循環を打破するために近年叫ばれているのが製造業の生産性向上です。今回は製造業の生産性が低下する要因、生産性を向上させる方法やツール、具体的な手順について解説します。
製造業の生産性が低下する主な5つの要因
製造業の生産性が低下する要因として次の5つが挙げられます。
- 人手不足
- 他部署との連携不足
- 作業ミスが多い
- 在庫を的確に管理できていない
- 標準化されていない
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.人手不足
経済産業省が発表した2017年12月の調査結果では、製造業の94%以上の企業が人手不足だと回答していました。それから、5年後の2022年5月に厚生労働省が発表した「2022年版 ものづくり白書」によれば、製造業の就業者数は約20年間で157万人減少しています。
このように、製造業の人手不足は深刻です。人手不足に陥ると、各プロセスで必要な人員が集められないため、製造ペースを維持できず、生産性の低下を招きます。また、人手が不足すると残っている従業員に負担がかかってしまうため、モチベーションの低下を招き、生産力が上がらないという事態にもなりかねません。
2.他部署との連携不足
他部署との連携不足も生産性を低下させる要因の1つです。製造業は様々な部門がかかわりながら、製品が作られていくため、部門間の連携は欠かせません。
そのため、連絡ミスや伝達忘れ、受け渡しミスなどが度々起きると、手戻りや無駄な確認事項が生じるため、生産ロスにつながる可能性があります。
3.作業ミスが多い
作業ミスが多いことも生産が低下する要因の1つです。作業ミスが発生すると、前項と同じく手戻りや無駄な確認事項が発生し、生産ロスにつながってしまいます。
最悪の場合、生産ラインが全停止する事態にもなりかねないため、作業ミスが多い場合はしっかりと対応しなければなりません。
4.在庫を的確に管理できていない
的確な在庫管理が行えていないことも、生産性が低下する要因の1つです。例えば、部品調達が遅れると、部品が不足してしまい、計画どおりに生産できません。
一方、部品不足を恐れて大量に部品を調達すると、過剰に在庫を抱えてしまう、きちんと収納できず往来の妨げになるといったリスクがあります。各プロセスをスムーズに進めるためには、過不足のない適切な在庫管理が欠かせません。
5.標準化されていない
標準化されていないと、業務の効率化ができません。また、ベテランと新人の間で品質差が生じてしまったり、ベテランの従業員に負担が集中したりするなどの事態となります。
その結果、従業員満足度が低下して従業員のパフォーマンスが低下する他、ベテランが離職するリスクが高まります。標準化されていないということは、ベテランのノウハウも十分に蓄積されていない可能性が高いです。
そのため、ベテランが離職してしまうと、生産性のさらなる低下は回避できません。
製造業における生産性向上とは?
生産性とは、企業が投入した資源に対して、どれだけの成果を生み出せているのかという効率の程度です。製造業では、生産量が成果、原材料や従業員、時間が資源に該当します。
以上の点から、製造業における生産性向上は、投入した資源に対して製品の生産量比率を向上させることを目指します。
製造業の生産性向上が注目されている2つの理由
製造業の生産性向上が注目されている理由として次の2つが挙げられます。
- 国際競争力の維持・向上
- 労働人口の減少
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.国際競争力の維持・向上
公益財団法人日本生産性本部が発表した「労働生産性の国際比較2022」によれば、日本の時間当たりの労働生産性はOECD加盟38ヶ国中27位と非常に低いです。主要7ヶ国の中で最も低い他、2020年は21位、2021年は23位と年々、ランクダウンしています。
近年は市場のグローバル化が進み、競争も激化している中、海外企業と対等に戦っていくためには生産性向上による国際競争力の維持・向上が欠かせません。
2.生産年齢人口の減少
生産年齢人口の減少も生産性向上が注目されている理由の1つです。生産年齢人口とは、15歳以上65歳未満の生産活動の中心を担っている層のことです。
総務省が発表した「令和4年版 情報通信白書」によれば、少子高齢化にともない、1995年の8,716万人をピークに生産年齢人口は減少しつつあります。また、今後の推計値では2030年には6,875万人、2065年には4,529万人と今後も生産年齢人口は減少していくことが予想されます。
生産年齢人口の減少にともない、今まで以上に人手の確保が難しくなる中で、品質および生産量を維持するためには、生産性を向上させて、1人あたりの生産量を増やさなければなりません。
製造業の生産性を向上させるメリット
製造業の生産性を向上させるメリットとして次の3つが挙げられます。
- 品質の向上・維持
- 利益の拡大
- コストの削減
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.品質の向上・維持
生産向上に向けて標準化や従業員1人あたりの生産能力を向上させられれば、生産スピードを速めながら、製品の品質を維持・向上が可能です。
品質が担保されれば、顧客は安心して商品を購入できるため、顧客満足度や信頼度、ブランド力の向上に寄与できます。
2.利益の拡大
生産性の向上によって、作業ミスや製品・原材料の無駄・ロスを削減できれば、効率よく資源を活用できるようになるため、生産量の増大および最大化を図れます。
これによって利益を拡大できれば、国内外での競争力を強化することにもつなげられるでしょう。
3.コストの削減
従業員の1時間あたりの生産性を向上させられれば、長時間労働の是正や、残業時間の削減につながるため、人件費などのコストを削減できます。生産性向上によって利益が拡大した状態でコストを削減できれば、浮いた資金を福利厚生や新規事業創出に割けるようになり、好循環を生み出せます。
また、残業時間を削減できれば、ライフワークバランスの向上によって、従業員満足度の向上も狙えるため、離職率の低下ややる気のある生産性の高い人材を育成することも可能です。
製造業の生産性を向上させる4つの方法
製造業の生産性を向上させる方法として次の4つが挙げられます。
- 5Sを活用した業務効率化
- システム・ツールの導入
- データによる数値化
- 設備・人員の再配置
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.5Sを活用した業務効率化
5Sとは、製造業の業務を効率化させる考え方です。下記5つの要素をポイントとして、業務を効率化することで、生産性の向上を目指します。
- 整理:必要なものと不必要なものの仕分け
- 整頓:必要なものをすぐに取り出せるようにする
- 清掃:設備のメンテナンスを行う
- 清潔:整頓・清潔を徹底して現場や設備を綺麗な状態に保つ
- しつけ:上記4つを日頃から行えるように教育する
2.システム・ツールの導入
自動化できる業務であれば、システム・ツールを導入して自動化するのも1つの手段です。業務を自動化できれば、従業員はコア業務に集中できるため、作業効率の改善や従業員の負担軽減につなげられます。
また、システム・ツールの導入は業務のデジタル化推進にも寄与できるため、データの収集・分析によって更なる業務改善が可能です。
3.データによる数値化
システム・ツールの導入によって業務をデジタル化できれば、稼働状況や労働状況など、従来ならば把握できなかった情報もデータによって数値化できます。そのため、データをもとにより具体的な施策の立案が可能です。
ただし、いくらデータが揃っているからといって、漠然と「数値が悪いから改善する」というだけでは十分な効果は得られません。なぜ改善しないといけないのか目的を明確にしたうえで、具体的な指標(KPI)の設定および達成するための施策を立案し、達成度合いを計測していくことが大切です。
4.設備の再配置
設備・人員の再配置も生産性を向上させるためには欠かせません。設備配置は生産形態や業務プロセスによって考えがちですが、実際に作業してみると無駄な往来が生じて、無駄が発生していることも多いです。
そのため、現場で作業する従業員や他部署の意見も取り入れながら、設備配置を最適化する必要があります。
製造業の生産性向上に寄与できる4つのツール
製造業の生産性向上に寄与できるツールとして次の4つが挙げられます。
- 無線
- AI
- 作業ロボット
- IoT
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.無線
生産性を向上させるためには、従業員同士の連携が欠かせません。しかし、工場が広かったり、作業に携わる人が多かったりすると、コミュニケーション不足によって連携が上手くいかず、無駄が発生することも少なくありません。
そこでおすすめなのが無線です。無線であれば、複数人に対して音声による一斉通信が可能な他、送信ボタンを押せば迅速に情報を共有できます。円滑なコミュニケーションが可能となれば、従業員の連携を強化して無駄をなくせるため、生産性の向上が期待できます。
2.AI
AIも製造業の生産性向上に寄与できる技術の1つです。様々な活用方法がありますが、代表的な活用事例としては、異常検知が挙げられます。
人が検品を行う場合、どうしても漏れや抜けなどのヒューマンエラーが発生する恐れがあります。また、検品の精度を上げようとするとどうしても時間がかかるため、生産量が多いとそれなりの人員を確保しなければなりませんでした。
AIの異常検知に検品を任せれば、漏れや抜けといったミスはしないため、精度の向上はもちろん、省人化や業務効率化に寄与できます。浮いた人材はコア業務に投入できるため、限られたリソースを有効活用しながら生産を向上させられます。
3.作業ロボット
コスト削減だけでなく、生産性向上にも有効なのが作業ロボットです。作業ロボットによって自動化できればAIの時と同じように、それまで担当していた人員を別作業に回せるため、リソースを有効活用できます。
また、人のように疲労したり、集中力が途切れたりする心配がないため、24時間稼働できることから、生産量の拡大も期待できるでしょう。近年はRPAといって財務処理などパソコン上で行う単純作業を自動化できるツールも登場しています。
そのため、製造ラインはもちろん、データ収集・分析や経費処理など、製造に関わる事務作業の自動化も可能です。
4.IoT
IoT(Internet of Things)とは、従来ならばインターネットに接続されていなかったモノをインターネットと融合させることで、相互に情報交換するテクノロジーのことです。工場内で稼働している様々な設備をネットワークでつなげることで、設備機器の現状や稼働状況を可視化できます。
収集したデータを分析することで、どのプロセスに問題があり、どこで無駄が発生しているのかを把握できるため、データをもとに具体的な施策を立案できます。
製造業の生産性を向上させる具体的な手順
製造業の生産性を向上させる手順は次のとおりです。
- 目標の設定・共有
- 課題の明確化
- 具体的な施策の立案
- システム・ツールの導入
- 設備の改善
生産性の向上といっても様々な方法があります。そのため、どの部分を効率化し、生産性向上によって何を目指すのか具体的な目標を設定していきましょう。
生産性向上は現場の従業員の理解・協力がないと実現できません。従業員の理解・協力を得るためにも、目標を設定したら従業員に共有することも大切です。
また、生産性向上に役立つという漠然とした理由でシステム・ツールを導入してしまうと、十分な効果を得られず、無駄にコストだけがかかったという事態になりかねません。このような事態を避けるためには、具体的な施策を立案したうえで、必要なシステム・ツールを選定する必要があります。
まとめ
製造業の生産性向上とは、「投入した資源に対して製品の生産量比率を向上させる」ことです。生産年齢人口の減少による人手不足、市場のグローバル化による競争の激化は今後も深刻化していくことが予想されます。
今後も企業を存続・発展させていくためには、生産性の向上が欠かせません。当記事で紹介した方法やツールを参考にしながら、製造業の生産性を向上させていきましょう。