製造業DXとは?DXが必要な理由や成功させるためのポイントについて解説
製造業DXとは、製造業をテクノロジーの力で変革することです。しかし、製造業DXという言葉は知っていても、製造業DXによって実現することや必要な理由をしっかりと理解していないという方は少なくありません。
今回は製造業DXの概要や実現すること、必要な理由、取り組む際の具体的なステップなどを解説します。
製造業DXとは?
製造業DXとは、製造業をテクノロジーの力で変革することです。ITツールによるデジタル化を促進して業務効率化を図るとともに、製品を利用するユーザーの生活をより良いものにしていくことを目指します。
製造業はいまだにアナログ作業が多いです。製造業をデジタル化すれば、製造工程を電子データで管理できるようになり、現場の効率化を図れます。
デジタル化によりDX推進が進めば、技術やノウハウを企業に蓄積し企業の資産として活用できる他、企業内のデータ・情報を駆使して、社会・経済情勢の変化に対応できる企業体制を構築できるでしょう。
製造業DXで実現する4つのこと
製造業DXで実現することとして次の4つが挙げられます。
- 生産性の向上
- 顧客満足度の向上
- 従業員満足度の向上
- データによる可視化
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.生産性の向上
製造業DXが実現すれば、様々な製造業務を自動化・効率化できるため、生産性の向上が見込めます。
また、自動化によって生まれたリソースをよりクリエイティブな業務に投入できるため、今まで実施できなかった新規事業の立ち上げなどにも挑戦できるでしょう。
2.顧客満足度の向上
製造業DXは顧客満足度の向上にもつなげられます。製造業DXが実現すれば、蓄積したデータを活用して顧客ニーズを的確に把握できるようになります。
その結果、ニーズに合わせた製品の開発・提供や既存製品のブラッシュアップをスムーズに行うことが可能です。また、データの活用によって需要を予測することもできるため、在庫不足による納品待ちも回避できます。
3.従業員満足度の向上
製造業DXによって業務効率化が実現すれば、従業員の負担を軽減したり、残業時間を削減したりできるため、働き方改革も推進できます。
働き方改革が成功すればライフワークバランスの向上にも寄与できるため、結果として従業員満足度や定着率も向上させられるでしょう。
4.データによる可視化
デジタル技術を導入すれば、生産状況や稼働状況など、従来であれば確認できなかった部分まで、データとして可視化できます。可視化できれば、トラブルが発生した際の原因も究明しやすくなるため、迅速なライン普及が可能です。
また、これらのデータは販売予測や需要予測、リソースの最適化などにも活用できるため、企業の競争力を向上させることにも役立てられます。
製造業DXのフェーズ
製造業DXのフェーズは次の3フェーズです。
- 1.スマートファクトリー
- 2.IoTプラットフォーム
- 3.新規サービスの開発
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.スマートファクトリー
スマートファクトリーとは、製造工場のシステム・装置にIoTやAIといったデジタル技術を導入することです。デジタル技術を導入することで、生産ラインの自動化・効率化や品質の向上につなげられます。
ただし、デジタル技術を導入して最適化してもこれらは業務のデジタル化に過ぎません。したがって、スマートファクトリーは製造業DXに取り組むための土壌づくりとも呼ばれるフェーズです。
2.IoTプラットフォーム
IoTプラットフォームとは、システムやIoTデバイス、アプリ、ネットワークなどをクラウドによってつないだプラットフォーム(土台)のことです。IoTとは、スマホや家電、各種システムといった様々なモノをインターネットにつなぐことを指します。
スマートファクトリーのフェーズでは各業務をデジタル化しただけであり、データは各システムで管理されている状態です。IoTプラットフォームのフェーズでは、各システムを連携させることでプラットフォーム化し、データの一元管理を目指します。
データの一元管理ができれば、顧客情報を素早く確認できるようになるため、顧客満足度の向上や問い合わせ対応の効率化を実現できます。
3.新規サービスの開発
蓄積したデータを分析し、マーケティングや事業開発に活用するフェーズです。製造業の主要ビジネスは製品を作ることですが、製造業DXが最終フェーズまで到達していると、様々なデータを収集できます。
これらのデータを活用すれば顧客ニーズや自社業務の問題点を把握しやすくなるため、新規サービスや新規事業、業務改善を目的とした従業員向けアプリの開発などにもつなげられます。
製造業DXが必要な理由
製造業DXが必要な理由は、デジタル技術やインターネット技術の発展によって、経済成長や市場変化のスピードが早くなっているからです。製造業は代々受け継がれてきた職人技術などで生き残ってきた企業も少なくありません。
しかし、デジタル化によって安価かつスピーディーな製造が可能となった現代では、経営維持ができなくなる懸念もあります。市場がグローバル化して多くの企業が海外市場にも展開していく中で、競争力を維持・向上させていくためには、DXは必要不可欠な取り組みです。
また、製造業DXはデジタルの力によって新しい技術・サービスの開発を促す側面もあります。DX化によりデータの収集・分析・運用を自動化できれば、既存業務にかかる時間を削減できるため、技術開発などクリエイティブな業務にリソースを集中させることも可能です。
DXの進捗状況
総務省が2021年に公表した「令和3年情報通信白書」によれば、日本企業の約6割が「DXは実施しない・今後も予定していない」と回答しています。製造業では57.2%が「DXは実施しない・今後も予定していない」と回答し、約半数以上の製造業企業がDXは実施しないという結果でした。
上記調査結果のとおり、製造業をはじめとする日本企業全体でDXが進んでないことが分かります。
製造業DXが進まない3つの理由
製造業DXが進まない理由として次の3つが挙げられます。
- IT投資目的がDXでない
- 属人的で現場の意向が強い
- データの活用が進んでいない
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.IT投資目的がDXでない
製造業DXが進まない理由としては、DXに欠かせないIT投資が進んでいないという点が挙げられます。
経済産業省が2020年に公表した「製造業を巡る動向と今後の課題」によると、IT投資の目的の多くが「旧来型の基幹システム更新・維持メンテナンス」や「業務効率化・コスト削減」でした。
DX化やIoT化といったデジタルモデルの変革を目的にIT投資を行っている企業は少なく、この意識の違いが製造業のDX化を遅らせている理由の1つだといえるでしょう。
2.属人的で現場の意向が強い
ものづくりの水準が高い日本は、現場こそが重視されるという考えが強い傾向にあるため、現場を監督している人材によって多くの工程で属人化しがちです。属人的傾向が顕著になると、業務プロセスの変更に拒否反応を示すことも少なくありません。
結果として、改善に向けた働きかけやデジタル技術導入による生産性向上が行えず、製造業DXが推進できない事態に追い込まれてしまいます。
3.データの活用が進んでいない
データ収集・活用が進んでいないというのも、製造業DXが進まない理由の1つです。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が2022年3月に発表した「我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査報告書」によれば、設備の稼働状況などのデータ収集実施率は2021年時点で43%でした。
2016年時点では33.4%だったことから、若干の改善は見られるものの、約半数以上の企業がデータ収集を実施していないという状況にあります。製造業全体でデータ活用の重要性を認識していないというのも、製造業DXが進まない要因といえるでしょう。
製造業DXの4ステップ
製造業DXの手順は次の4ステップです。
- DXイメージを組織全体で共有
- 現状の把握
- 洗い出した課題点をもとに業務を効率化
- 顧客ニーズに合わせて組織を変革
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.DXイメージを組織全体で共有
製造業DXを推進していくためには、現状を把握して問題点を洗い出していく必要があります。そのためには現場の従業員との連携が必要不可欠なのですが、製造業は属人的で現場の意向が強い業種です。
以上の点からまずは現場の状況に理解を示して、協力してくれる体制を構築しなければなりません。経営層だけでDXを推進するのではなく、セミナーや説明会などを開催してDXイメージや目標を組織全体で共有しながら、現場担当者と意見を交換していくことが大切です。
2.現状の把握
イメージと目標を共有し現場との協力体制を構築したら、ここではじめて現場の状況を把握していきます。業務プロセスや従業員の稼働人数・配置などを整理して、現場の課題点を洗い出していきましょう。
この時、市場のニーズをしっかりと整理しておくことも大切です。なぜ大切なのかいうと、ユーザーの求めていることや、変化の激しいニーズを掴むことがDX化を図るうえで欠かせないからです。
3.洗い出した課題点をもとに業務を効率化
収集したデータを活用して課題点を把握したら、業務効率化に向けた取り組みを実施していきます。業務効率化に取り組む際は、スモールスタートを意識しましょう。
スモールスタートとは、小規模に展開し需要や効果に応じて、少しずつ規模を拡大していくことです。システムを導入して業務プロセスをすべて刷新したり、組織構造を変化させたりすると、現場が変化に適用できないリスクがあります。
まずは対応しやすい1部の業務にシステムを導入して試し、様子をみながら徐々に適用範囲を拡大するようにしましょう。
4.顧客ニーズに合わせて組織を変革
「データを活用して業務を効率化」が完了しても製造業DXが実現したとはいえません。これまでのステップはあくまでも業務のデジタル化が目的であり、製造業DXの最初のフェーズである「スマートファクトリー」をクリアしたに過ぎないからです。
そのため、業務効率化が完了したら各種システムを連携させてIoTプラットフォーム化し、製品の付加価値を高めることを意識しましょう。収集したデータを分析・活用し顧客ニーズに合わせて組織を変革していくことではじめて製造業DXが実現したといえます。
製造業DXを成功させるための3つのポイント
製造業DXを成功させるためのポイントとして次の3つが挙げられます。
- DX人材の確保・育成
- ダイナミック・ケイパビリティを向上させる
- 攻めと守りの2つの視点を持つ
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.DX人材の確保・育成
デジタル技術やDX推進は複雑であるため、専門知識が必要な分野です。社内に適した人材がいない場合は、DX人材を外部より採用し確保する必要があります。
ただし、DX人材はデータ・デジタル技術のスペシャリストであるだけでなく、製造業にある程度精通していることが望ましいです。DX人材が不足している現状を考慮すると、外部から適切な人材を確保できない可能性も低くありません。
そのため、社内人材と掛け合わせる採用戦略や、既存の従業員をDX人材に育成する戦略も練っておく必要があります。
2.ダイナミック・ケイパビリティを向上させる
ダイナミック・ケイパビリティとは、企業変革力ともいわれ、環境の変化に順応して組織・ビジネスを変化させる力のことです。デジタル技術の進歩・SNS普及で市場の変化スピードが早くなっていることに加え、新型コロナウイルス流行の影響などもあり世界の不確実性は強まっています。
付加価値を高めた商品や顧客ニーズに合わせた新規事業をただ提供しているだけでは、短期的な成果は上げられても、その後の変化には対応できません。本当の意味で製造業DXを実現するためには、ダイナミック・ケイパビリティを向上させることも大切です。
3.攻めと守りの2つの視点を持つ
DXは攻めと守りの視点を持つようにしましょう。製造業企業の多くは業務効率化やコスト削減、システムメンテナンスといった守りに投資しがちです。
しかし、デジタル化に業務効率化・コスト削減という守りに徹していてはDXを実現することはできません。DXを実現するためには、守りで足元を固めた後、システムを連携・統合してIoTプラットフォーム化し、ビジネス変革や新製品・サービスの提供などの攻めに転じる必要があります。
したがって、DX戦略を練る際は、攻めと守りの2つの視点を持つことが大切です。
まとめ
製造業DXとは、テクノロジーを活用して製造業を変革することです。製造業DXというのは簡単ですが、日本の製造業企業の半数以上がDXに取り組む予定がないと回答しています。
また、製造業DXに取り組もうとしても、日本の製造業は現場の意向が強く、現場からの反発を受けて推進できなかったり、頓挫したりすることも少なくありません。しかし、市場のグローバル化や少子高齢化による労働人口の減少などで現場力が弱まっています。
弱まっている現場力を補いサービスの質を維持していくためには、製造業DXへの取り組みが欠かせません。