消防デジタル無線とは?特徴やデジタル化のメリットについて解説
消防デジタル無線とは、消防救急で運用されているデジタル無線のことです。簡易無線のアナログ周波数の停波およびデジタル無線への置き換えが進んでいますが、消防救急無線も元はアナログ無線であり、2016年にデジタル無線へと完全移行しました。
今回は消防デジタル無線の特長やアナログ無線から移行した理由、デジタル化のメリットについて解説します。
消防救急無線とは?
「消防救急無線」とは、消防署や消防本部などに設置されている無線基地局と、消防・救急車両に装備された無線などとの間で連絡を行う業務用無線および無線通信網のことです。車両に設置する車載タイプ、消防救急隊員などが所持する携帯タイプなどがあります。
消防救急無線は全国の消防本部で設置・運用されており、日々の消防活動において必要不可欠な通信機器です。
消防アナログ無線から消防デジタル無線へ
消防救急無線は元々、150MHz帯のアナログ無線が使用されていましたが、2016年に260MHz帯のデジタル無線へ完全移行しました。消防アナログ無線から消防デジタル無線へ移行された大きな理由は、消防アナログ無線のデメリットの多さです。
消防アナログ無線は電波傍受しやすかったため、通信内容に個人情報が含まれている場合、情報が漏えいするリスクがありました。また、混信やノイズ、電波干渉も起こりやすく、スムーズな情報伝達が行えないというデメリットもあります。
このような背景もあり、個人情報の漏えいリスク低減とスムーズな通信が行える消防デジタル無線への移行が行われました。
消防デジタル無線の4つの特徴
消防デジタル無線の特徴として次の4つが挙げられます。
- チャンネル数の増加
- 広域通信が行える
- 情報漏えいリスクを抑えられる
- 高音質で聞き取りやすい
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.チャンネル数の増加
消防デジタル無線は消防アナログ無線の時よりも、利用できる無線のチャンネル数が多いです。
チャンネル数が増加すれば、事案をより細分化してチャンネルを割り当てられるため、指揮系統を整理しやすく、スムーズな通信が可能となっています。
2.広域通信が行える
デジタル無線はアナログ無線と違い、電波を直接的に飛ばします。
そのため、ロスを抑えて、より遠くまで電波を届けられるため、アナログ無線と比べて、通信距離が伸び、広域通信がしやすいです。
3.情報漏えいリスクを抑えられる
現在の消防無線は、消防関係者以外は購入できないことがほとんどです。また、機種によっては紛失時に悪用されないように、使用不能信号を遠隔で送受信できるものもあります。
後述する「秘匿性の向上」と合わせると、消防デジタル無線の情報漏えいリスクはアナログ消防無線と比較して、低減しているといえるでしょう。
4.高音質で聞き取りやすい
デジタル無線は音声を別形式のデータに変換した後に送信するのですが、データ変換時にノイズを切り捨てています。
そのため、アナログ無線と比べると、音質はクリアで聞き取りやすいです。
消防無線通信システムを構成している装置
消防無線通信システムを構成している装置は以下の5つです。
- 基地局無線装置
- 回線制御装置
- 遠隔制御装置
- 無線統制台
- 移動局
「基地局無線装置」とは、基地局に設置する無線のことです。基地局は移動局などと通信を行うために移動しない無線のことを指します。
「回線制御装置」とは、複数の基地局の接続を制御したり、消防指令システムなどと接続して無線装置を制御したりする装置です。
「遠隔制御装置」とは、「回線制御装置」あるいは「基地局無線装置」と接続し、消防・救急車両などと個別に通信する装置のことを指します。
「無線統制台」とは、「回線制御装置」と接続して、消防・救急車両との無線通信を集中制御する装置です。
「移動局」とは、移動もしくは特定しない地点に停止中に運用する無線のことです。一般的な無線はこの「移動局」に該当し、設置場所などによって、携帯・卓上・車載といった様々なタイプがあります。
消防無線のデジタル化の3つのメリット
消防無線をデジタル化するメリットとして次の3つが挙げられます。
- 混信が起こりにくい
- データ転送による伝達の確実性と効率的な活動支援
- 秘匿性の向上
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.混信が起こりにくい
アナログ消防無線よりもチャンネル数が多いデジタル簡易無線は、よりチャンネルを区分して利用できるため、混信が起こりづらい仕組みとなっています。
また、秘話コードやユーザーコードなどを用いた「秘話モード」も搭載されているため、音声を暗号化して通話することも可能です。
2.データ転送による伝達の確実性と効率的な活動支援
消防無線のデジタル化は、「データ転送による伝達の確実性と効率的な活動支援が行える」といったメリットもあります。消防無線のデジタル化によって、情報を可視化できるようになりました。
そのため、音声だけでなく、文字情報や位置情報なども利用できるようになり、確実な情報の伝達や確認が行えるようになっています。
消防・救急車両の位置情報・活動状況を把握できるようになったことで、現場付近にいる車両に出場指令が出せるようになり、効率的な車両運用および迅速かつ確実な現場到着が可能となりました。
また、下記のとおり、位置情報は様々な形で利用できます。
- 現場付近の防火水槽といった水利位置情報の利用
- 高齢者・障害者といった要援護者の情報の把握
- 現場付近の受け入れ可能な病院情報検索
水利位置情報の利用による最適な水利選択、要援護者情報の把握、受け入れ可能な病院情報検索によって、迅速かつ的確な消化・救助・救急活動が可能です。
3.秘匿性の向上
通話の秘匿性が向上するのも、消防無線デジタル化のメリットです。アナログ通信の場合、音をまとめて変調し、ほぼそのままの状態で飛ばすため、無線が傍受されるリスクがありました。
一方、デジタル通信の場合は、音を0と1のデジタルデータに圧縮・変調してから飛ばします。秘匿性が向上すれば、一般的な受信機では無線傍受できなくなるため、患者や被害者の情報を保護し、個人情報の漏えいリスクを低減することが可能です。
また、テロといった国民保護事案や特殊災害事案における機密情報などの保護も強化できます。
消防デジタル無線の注意点
デジタル無線の平均寿命は10年といわれていますが、デジタル無線から完全移行した2016年から既に5年以上が経過しています。消防無線は人々の生活を守るうえで、必要不可欠な通信網です。
そのため、不調だったり、使い勝手が悪いと感じたりしている場合は、早急に買い替えを検討しなければなりません。購入したら終了というわけではなく、不便さや平均寿命を念頭に置きながら、消防無線は常にアップデートしていく必要があります。
デジタル化によってIP無線も用いられるようになった
IP無線とは、複数人に向けて一斉に情報共有できる無線と、回線が通っている場所であればどれだけ距離が離れていても通信できる携帯電話の長所を併せ持つ無線のことです。
デジタル化に伴い、消防無線としてIP無線が用いられるようになっています。
IP無線が消防無線として使用される3つの理由
IP無線が消防無線として使用される理由として次の3つが挙げられます。
- 免許・資格不要で使用できる
- 通信範囲が広い
- 混信が起こりづらい
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.免許・資格不要で使用できる
電波は希少な有限資源です。各々が好き勝手に使用すると、様々な弊害や不利益があるため、電波法による規制が設けられており、無線によっては免許や資格などを取得しなければなりません。
消防無線も例外ではない他、同一の設備を使用する場合でも固定局と基地局の免許を両方取得しなければならない場合があります。また、免許・資格は更新も必要なため、管理がしづらいです。
一方、IP無線は携帯回線と同じ回線を利用するため、免許・資格を取得せず使用できます。
2.通信範囲が広い
従来の無線だと、通信できる範囲は電波が届く数百メートルから数キロメートル程度で、それ以上離れると通信できません。一方、IP無線は携帯回線と同じ回線を使用するため、通信範囲が非常に広範囲です。
遮蔽物の影響も受けないため、携帯電波が届く場所にいれば、問題なく通信が行えます。
3.混信が起こりづらい
IP無線にはIPアドレスと呼ばれる識別番号が割り振られており、データの送受信は指定されたIPアドレスを持つ機器同士に絞って行います。つまり、IP無線の通信はIPアドレスによって決まるため、混信が起こるリスクがなく、第三者に傍受される心配がありません。
また、音声信号をデジタル変換する際、データが暗号化されるため、高いセキュリティ性も担保されています。
IP無線を導入する際の注意点
IP無線を導入する際の注意点として次の2つが挙げられます。
- 災害時に使用できないリスクがある
- コストが割高
それぞれ詳しくみていきましょう。
災害時に使用できないリスクがある
IP無線は通信範囲が広いため、災害時には有用な通信手段と思われがちです。しかし、IP無線は携帯回線の状況に左右されてしまうため、災害時によって基地局が倒壊したり、通信障害が発生したりした場合、全くつながりません。
また、災害時には携帯回線がパンクするリスクも高いため、通信がつながりにくく、不安定になる可能性があります。災害時でも確実かつ安定した通信を行うためには、衛星インターネット回線などをバックアップ回線として用意しておくなどの対策が欠かせません。
コストが割高
IP無線は携帯回線を使用するため、携帯電話と同じく月額の利用コストがかかるため、運用する機器が多いほど、運用コストは高くなりがちです。使用するエリアが限定される場合、従来の無線でも十分に通信でき、コストも抑えられます。
そのため、IP無線に絞るのではなく、用途や通信距離なども加味して、適切な無線を選ぶことが大切です。
一般企業や一般人がIP無線以外で使用できる無線
一般企業や一般人がIP無線以外で使用できる無線として次の2つが挙げられます。
- 特定小電力トランシーバー
- 簡易無線
それぞれ詳しくみていきましょう。
特定小電力トランシーバー
「特定小電力トランシーバー」とは、免許不要で使用できる無線です。送信出力が小さく通信距離は短いものの、安価で購入しやすいといった導入のしやすさと、無線初心者でも使用しやすい手頃さから、1フロア程度の飲食店や相手が見える距離で行う交通整理などで利用されます。
総務省が公開している特定小電力トランシーバーの定義は以下のとおりです。
3.小電力の特定の用途に使用する無線局
コードレス電話、小電力セキュリティシステム、小電力データ通信システム、デジタルコードレス電話、PHSの陸上移動局、狭域通信システム(DSRC)の陸上移動局、ワイヤレスカードシステム、特定小電力無線局等の特定の用途及び目的の無線局であり、次の条件をすべて満たすもの。
- 空中線電力が1W以下であること。
- 総務省令で定める電波の型式、周波数を使用すること。
- 呼出符号または呼出信号を自動的に送信しまたは受信する機能や混信防止機能を持ち、他の無線局の運用に妨害を与えないものであること。
- 技術基準適合証明を受けた無線設備だけを使用するものであること。
簡易無線
「簡易無線」とは、無線従事者資格を取得していなくても簡易的に使用できる無線のことです。簡易無線も消防無線と同様、デジタル化が進められており、アナログ簡易無線は2024年11月30日で停波することが予定されています。
簡易無線には「免許局」と「登録局」の2種類があります。それぞれ詳しくみていきましょう。
免許局
「免許局」とは、法人・団体が業務目的のみでの使用が許された簡易無線です。免許取得した法人・団体に所属している方のみが使用を許されているため、所属外の方は使用できません。
また、レンタル無線として貸し出すことも禁止されています。
登録局
「登録局」とは、業務目的だけでなく、個人がレジャー目的で使用することもできる無線です。免許局と違い、登録者以外でも使用でも使用できるため、レンタル無線として貸し出すこともできます。
また、免許局は1台ずつ免許申請しなければなりませんが、登録局は包括申請によって複数台をまとめて登録手続きできるため、手続きの負担も抑えられます。ただし、チャンネル数は免許局よりも少ないため、混信しやすいのがデメリットです。
まとめ
2016年に消防無線はアナログからデジタルへと切り替わりました。消防デジタル無線はアナログ無線と比較して、チャンネル数が多い、広域通信が可能、情報漏えいのリスクが低いといった特長があり、様々なメリットがあります。
また、デジタル化に伴って従来の無線よりも長距離通信が可能なIP無線の導入も増えてきました。簡易無線もアナログ周波数の停波を前にデジタル化が進んでいるため、無線選びに悩んでいる方は、消防デジタル無線の移行・運用方法を参考にしてみるとよいでしょう。