RoIP(Radio over IP)とは?仕組みや無線との連携で何が変わるのかについて解説
「RoIP」という言葉を聞いてピンと来る方はほとんどいないでしょう。RoIPとはIP網を使用することで、通常ならば電波が届かず通信できないPTT無線をつなげて、通信できる仕組みのことです。
今回はRoIPの概要や仕組み、無線の概要や種類、メリット・デメリットについて解説します。
RoIPとは?
ここではRoIPの詳細を次の2項目に分けて解説します。
- RoIPの概要
- RoIPの仕組み
それぞれ詳しくみていきましょう。
RoIPの概要
「RoIP(Radio over IP)」とは、4G・5G網や衛星通信網といったIP網で、電波が届かないほど離れた場所にあるPTT無線同士をつなげて、通信エリアを拡大できる仕組みです。衛星通信と組み合わせた場合、どこにいても誰とでもつながるネットワークを構築できます。
そのため、災害時には災害現場と距離が離れた対策本部との連絡、点在する災害現場同士での連絡をスムーズに行うことができます。
RoIPの仕組み
RoIPは無線のPTT通信および通話音声をIP化し、衛星通信網をはじめとするIP網を経由できる端末を介して通信を行います。
こうすることで、従来ならば無線の電波が届かない距離にある本社や本庁、災害本部などに向けて通信することが可能です。
無線とは?
無線とは「無線通信」の略で、電波を活用して行う電気通信のことです。送信機と受信機を一体化させた機器はすべて無線のことを指します。
無線はグループで1つの周波数を共有することで、複数人に対して一斉に情報を共有できます。そのため、迅速な情報共有が求められるイベントや警備、工事現場などにおいて非常に有用な通信手段です。
無線はPTTが基本
無線の通信方式は「PTT(プッシュツートーク)」が基本です。PTT(プッシュツートーク)とは、送信機と受信機を切り替えて通信する仕組みのことです。
無線の電源をONにしてチャンネルを合わせると、無線は電波を受信する状態であるため、相手の音声しか聞こえません。自分が発信する場合は、送信ボタンを押して、送信状態にしてから発信し、発信が終わったら、送信ボタンを離します。
自分の通信が終了した際、送信権を手放したことが相手に分かるように「どうぞ」と意思表示するのがPTT無線で通話する際のルールです。
なぜ、このような手順・ルールがあるのかというと、PTTは1つの周波数帯の電波で送受信を行っているため、片方が送信している間、自分は発信できないからです。そのため、携帯電話のように、双方が同時に通話することができません。
同時通話が可能な無線もある
ただし、無線の機種によっては、携帯電話のように同時通話できるものもあります。それがクロスバンド方式を用いている「同時通話無線」です。
クロスバンド方式とは、送受信で異なる周波数帯を用いている通信方式です。クロスバンド方式を用いている無線であれば、同時通話が可能であるため、携帯電話と同じ感覚で通信が行えます。
ただし、同時通話無線はPTT無線と比較すると、通信距離が短くなるというデメリットがあります。PTT無線と同じ感覚で同時通話無線を使用すると、通信距離が足りないという事態にもなりかねなません。
そのため、購入前には通信距離が適当かどうか確認しておく必要があります。
また、携帯電話のデータ回線を用いて通信を行なうIP無線も同時通話が可能な機種が存在します。
IP無線は電波を飛ばすのではなく、データ回線を経由し音声の送信を行うため、従来の無線に比べ通信範囲が広く、携帯電話の繋がる範囲であれば日本全国通信できるため、障害物で音声が途切れにくいといった特徴があります。
無線の注意点
無線を使用する際は、電波法を遵守しなければなりません。電波法とは、無線の混信を防止して、効率的な電波利用を確保するとともに、電波の公平な利用を確保するための法律です。
インターネットの普及もあり、比較的簡単に購入できる無線ですが、無線の種類によっては然るべき手順を踏んで、免許を取得したり、登録したりする必要があります。必要な手順を踏んでいない場合、電波法違反として罰せられてしまうため、無線を導入する際は十分注意しましょう。
無線の種類
無線の種類として次の3つを紹介します。
- 特定小電力トランシーバー
- 簡易無線
- IP無線
各種無線の概要やメリット・デメリットについて詳しくみていきましょう。
特定小電力トランシーバー
「特定小電力トランシーバー」とは、送信出力が0.1W以下と非常に小さく、周囲の電波に与える影響が少ないことから、免許不要で使用できる無線です。免許不要なため、購入後すぐに使用できます。
総務省が公表している「特定小電力トランシーバーの定義」は以下のとおりです。
3.小電力の特定の用途に使用する無線局
コードレス電話、小電力セキュリティシステム、小電力データ通信システム、デジタルコードレス電話、PHSの陸上移動局、狭域通信システム(DSRC)の陸上移動局、ワイヤレスカードシステム、特定小電力無線局等の特定の用途及び目的の無線局であり、次の条件をすべて満たすもの。
- 空中線電力が1W以下であること。
- 総務省令で定める電波の型式、周波数を使用すること。
- 呼出符号または呼出信号を自動的に送信しまたは受信する機能や混信防止機能を持ち、他の無線局の運用に妨害を与えないものであること。
- 技術基準適合証明を受けた無線設備だけを使用するものであること。
特定小電力トランシーバーのメリット
特定小電力トランシーバーのメリットとしては以下が挙げられます。
- コンパクトで所持しやすい
- 免許・登録が不要
- 長時間の運用が可能
- 運用コストがかからない
特定小電力トランシーバーのデメリット
特定小電力トランシーバーのデメリットとしては以下が挙げられます。
- 他の無線と比べて通信距離が短い
- 遮蔽物の影響を大きく受ける
特定小電力トランシーバーの通信距離は非常に短いです。導入する際は想定する通信距離の範囲内かどうかしっかりと確認する必要があります。
簡易無線
簡易無線とは無線従事者資格を所持していなくても、簡易的に使用できる無線です。総務省の公式ホームページでは次のように記載されています。
簡易無線局とは、無線従事者資格が不要で、簡易(人命や財産に影響する通信は除く。)な業務又は個人的用務を目的とした無線局です。
引用:総務省-簡易無線
簡易無線には「登録局」と「免許局」の2種類があります。
「登録局」とは、2008年に導入された無線です。業務目的での使用はもちろん、レジャー目的でも使用できる他、レンタル無線として個人や法人に貸し出すこともできます。
「免許局」とは、法人・団体が業務目的で使用する無線のことです。業務使用を目的としている特長上、登録局よりもチャンネル数が多く、混線しにくいといったメリットがあります。
免許局は業務目的のみ使用が許されているため、レジャー目的で使用できません。また、免許を取得している組織に属している人のみ使用を許されているため、所属外の人に使用させることや、無線のレンタルは禁止されています。
簡易無線のメリット
簡易無線のメリットとしては以下が挙げられます。
- 特定小電力トランシーバーと比べて通信距離が広い
- 出力が高いにもかかわらず、無線従事者を配置する必要がない
- 秘話性が高く、混信しにくい
簡易無線のデメリット
簡易無線のデメリットとしては以下が挙げられます。
- 運用にあたっては免許取得・登録手続きが必要
- バッテリー消耗が激しい
- 特定小電力トランシーバーと比べて本体が重くて厚い
IP無線
「IP無線」とは、携帯回線を使用した無線のことです。携帯回線を使用することで、携帯の電波が届く場所にいれば、どれだけ離れていても通信できる他、携帯電話と同じ感覚で通話できます。
また、他回線の電波が混ざらないため、混信するリスクもありません。
IP無線のメリット
IP無線のメリットとして以下が挙げられます。
- 携帯電話の届く場所にいれば通信距離の制限がない
- 資格取得・免許申請不要
- 高音質で通話しやすい
- 個別通話とグループ通話のどちらも可能
- 混信しないため、盗聴されるリスクが低い
IP無線のデメリット
IP無線のデメリットとして以下が挙げられます。
- 携帯電話と同じく毎月コストがかかる
- 電波が届かない山岳地帯や地下などでは通信できない
- 通信障害が起きやすい災害などでは使用できないリスクがある
各種無線の通信距離の違い
特定小電力トランシーバーと簡易無線、IP無線の通信距離の違いは以下のとおりです。
見通しの良い場所 | 市街地 | |
特定小電力トランシーバー | 1km~2km程度 | 100m~200m程度 |
簡易無線 | 4km~5km程度 | 500~1km程度 |
IP無線 | 携帯の電波が届く範囲すべて | 携帯の電波が届く範囲すべて |
通信場所の環境や機種によっては、多少の違いはあります。したがって、上記の通信距離はあくまでも目安として捉えておきましょう。
無線を導入するメリット
無線を導入するメリットとして次の4つが挙げられます。
- 利用料がかからない・安価ですむ
- 複数人に対して一斉に情報共有ができる
- 耐久性が高い
- 災害時の通信手段として活用できる
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.利用料がかからない・安価ですむ
携帯電話やIP無線の場合、毎月利用料金を支払わなければなりません。運用する機種が多くなるほど、ランニングコストも高くなってしまいます。
一方、特定小電力トランシーバーや簡易無線の場合、月額利用料はかかりません。特定小電力トランシーバーの場合、かかるのは本体コストのみです。
簡易無線の場合は免許・登録申請時に手数料や年間の電波利用料がかかりますが、携帯電話やIP無線と比べると、ランニングコストは大幅に抑えられるでしょう。
2.複数人に対して一斉に情報共有ができる
業務連絡を音声で行う場合、携帯電話だと1人1人に電話をかける必要があります。相手が多いほど、時間もかかるため、急な業務連絡の場合、迅速な情報共有が行えません。
無線の場合、チャンネルさえ合わせておけば、ボタン1つ押すだけで複数人に向けて、一斉に情報共有が可能です。そのため、急な要件であっても、迅速に対応することができます。
3.耐久性が高い
無線は屋外での使用を念頭に設計されています。そのため、携帯電話と比較して耐久力が高く、落としてしまってもひびが割れたり、故障したりするリスクが低いです。
また、雨水で濡れたり、粉塵が内部に入ったりして故障するリスクを抑えるために、防塵・防水機能が備わっている機種も多いです。粉塵が多い場所や屋外で使用する可能性がある場合は、防塵・防水機能が備わっている機種を選ぶとよいでしょう。
4.災害時の通信手段として活用できる
無線は同じ周波数に合わせることで、機器同士が直接送受信を行っているため、電波が届く範囲であれば、問題なく通信が可能です。そのため、災害時の有用な通信手段として活用できます。
ただし、無線の中でも携帯回線を使用しているIP無線は、災害時には使用できなくなるリスクがあります。また、特定小電力トランシーバーは通信距離が狭い分、スムーズな通信が行えない可能性が高いです。
そのため、災害時の通信手段として用いるのであれば、通信距離が広い簡易無線をおすすめします。
無線が災害時に役立つ理由とは?
前項にて、無線は災害時の通信手段として有用だと紹介しました。現代では携帯電話が普及しているにもかかわらず、なぜ無線が災害時に有用な通信手段なのか、気になる方も多いでしょう。
無線が災害時に役立つ理由は、ネットワークの影響を受けないからです。携帯電話は火災や津波などで基地局が破壊された場合、携帯電波がないため、全くつながりません。
また、仮に基地局が破壊されなかったとしても、災害時には通信回線がパンクしやすいため、通信が不安定となり、つながりにくくなるリスクがあります。
一方、無線の場合は同じ周波数に合わせた無線同士が直接送受信を行うため、携帯電話のようにネットワークの影響を受けません。電波が届く範囲にいれば、問題なく通信できるため、災害時でもスムーズに運用することが可能です。
無線を使用する際の注意点
災害に強い無線ですが、無線は電波が届く範囲に限界があります。災害規模が大きく、各救助現場や対策本部との距離が離れている場合は通信できないため、迅速な情報共有や連携が行えません。
そこで活用されるのが、当記事のテーマである「RoIP」です。RoIPを用いれば、PTT通信と通話音声をIP化し、衛星通信網を経由できる端末を介して、通信を行うため、無線の通信距離を拡大させることができます。
まとめ
無線は同じ周波数に合わせることで、機器同士が直接送受信を行う通信機器です。携帯電話のようにネットワークの影響を受けないため、災害時には役立つ通信手段となります。
ただし、一般的な無線は通信距離が決まっており、電波に届く範囲でしか通信が行えません。そこで活用されているのが「RoIP」です。
RoIPを用いれば、無線の通信・音声をIP化し、端末を介してIP網経由で通信できるため、通信距離を拡大することができます。無線の通信距離を拡大したいという場合は「RoIP」の導入を検討してみるとよいでしょう。