工場の生産性を向上させるステップとは?生産性向上が必要な理由やメリットについても解説
少子高齢化による労働人口の減少や国際的な競争力が低下する中で、工場の生産力を維持・向上させていくためには、工場の生産性向上が欠かせません。しかし、生産性と一口にいっても、どのような指標で、どのように生産性を向上させればよいか分からないという方も多いでしょう。
今回は生産性および生産性向上の概要や生産性の種類、工場の生産性を向上させるメリット・ステップについて解説します。
生産性向上とは?
「生産性向上」とは、保有資源を最大限活用することで、小さな投資で大きな成果を生み出すことです。「生産性」とは、従業員や労働時間といったインプット(経営資源)に対して、どれだけのアウトプット(成果)を上げているかどうかを計測する指標の1つとして用いられます。
生産性は以下の計算式で算出可能です。
「生産性=アウトプット(成果)÷インプット(従業員や労働時間といった経営資源)」
例えば、4,000個の製品を200人で製造している場合、4,000個÷200人となり、生産性は20ですが、100人で同じ量を製造できるようになれば、40へと向上させられます。つまり「生産性向上」は、インプットに対するアウトプットを大きくするということです。
インプットに対するアウトプットを大きくできれば、経営資源をそれだけ効率よく活用できると判断できます。
業務効率化との違い
「業務効率化」とは、業務工程に存在する無駄を排除して、業務を効率的にしていくことです。「生産性向上」は少ない資源で大きな成果を目指すための取り組みのことであり、業務効率化は生産性を向上させるための施策の1つとなります。
したがって、両者は全くの別物というわけではありません。
ただし、業務効率化によって無駄を排除し、投入する資源を少なくした結果、成果物も少なくなったという事態になる恐れもあります。生産性向上は「成果」と「投入資源」のバランス、業務効率化は投入資源の最小化と目的によって適切な施策は異なるため、両者は区別して考えるようにしましょう。
生産性を把握する際に必要な3つの指標
生産性を把握する際に必要な指標は次の3つです。
- 労働生産性
- 付加価値
- 労働分配率
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.労働生産性
「労働生産性」とは、従業員1人あたりがどれくらい効率的に仕事を行っているかを計測するための指標のことです。労働生産性を可視化すれば、企業全体の生産性を把握できます。
労働生産性には「物的労働生産性」と「付加価値労働生産性」の2種類があります。物理的労働生産性は以下の計算式で求めることが可能です。
「物理的労働生産性=売上高または生産数量÷労働量」
次項で「付加価値」についてみていきます。
2.付加価値
「付加価値」とは、「粗利益」とも呼ばれ、提供する製品・サービスをより高い価値にする状態のことです。製品・サービスの付加価値を高めれば、競合他社にはない魅力を持たせられるため、顧客と継続的な接点を持たせる重要な要素にすることができます。
付加価値は以下の計算式で算出することが可能です。
「付加価値=付加価値額÷労働量」
3.労働分配率
「労働分配率」とは、投入した人件費をベースに生産性を測る指標のことです。
労働分配率は次の計算方法で算出できます。
「労働分配率=投入した人件費÷付加価値」
労働分配率は全体の投資金額から生産性の割合を把握する指標です。したがって、労働分配率を算出する際は、投入した人件費には給与だけでなく、賞与や福利厚生費なども含めるようにしましょう。
労働分配率の数値は低い方が企業にとって良いといわれています。低数値の方が投入した人件費が少ない中でも、大きな付加価値を生んでいると判断できるからです。
ただし、労働分配率の数値が低いというのは付加価値に対して、人件費が低い状態であるといえます。そのため、数値があまりにも低い場合は従業員のモチベーション低下につながるリスクがあるため、十分注意しましょう。
生産性の種類
生産性の種類として労働生産性以外にも次の3つが挙げられます。
- 資本生産性
- 人事生産性
- 全要素生産性
それぞれ詳しくみていきましょう。
資本生産性
「資本生産性」とは、機械や土地といった資本1単位で生み出された付加価値額の割合を示した指標のことです。資本生産性を算出すれば、資本1単位あたりでどれだけの利益に貢献しているのかを把握できます。
数値が高ければ、高いほど、資本が生み出す利益は大きいということです。資本生産性の算出方法は次のとおりです。
「資本生産性=生産量もしくは生産額÷有形固定資産」
資本生産性は、資本を利用する頻度や稼働率を上げて生み出す成果を増やすことで、向上させられます。
人時生産性
「人事生産性」とは、従業員1人が1時間あたりに生み出した成果物の割合を把握できる指標のことです。人事生産性の数値が高ければ、短時間で効率的に成果を上げられていると判断できます。
人事生産性は以下の計算方法で算出できます。
「人事生産性=生産量もしくは生産額÷従業員の総労働時間」
労働生産性と間違われやすいですが、人事生産性は従業員1人が1時間あたりに出した成果の割合です。したがって、労働生産性と比較すると、より限定的な数値となります。
全要素生産性
「全要素生産性(TFP)」とは、労働や資産など投入した全ての要素に対して獲得できた成果物の割合を示した指標です。全要素生産性は以下の計算方法で算出します。
「全要素生産性の増減=生産性全体の変化率-労働変化率-資本変化率」
資本量や労働人数といった全ての要素を算出して計算することは一般的に行えません。そのため、全体の生産量の変化率から労働・資本といった各変化率を引くことで算出します。
生産性向上が求められている2つの理由
生産性向上が求められている理由として次の2つが挙げられます。
- 少子高齢化の進行
- 国際的な競争力の喪失
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.少子高齢化の進行
生産性向上が求められているのが、少子高齢化の進行による労働人口の減少です。総務省統計局が2020年に公表した「労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)平均結果の要約 」によれば、2020年の平均就業者数は平均約6,600万人で、前年比で約48万人減少しています。
15~64歳の就業者数は約5,700万人で、約61万人減少しています。
2022年に内閣府が公表した「令和4年版 少子化社会対策白書」によれば、2020年の出生数は1947年以来最低の約84万人となっています。
今後も少子高齢化は進むことが予想されており、労働人口はさらに減少していくでしょう。労働力という資源が少なくなる中で、今までと同程度の成果を上げていくためには、生産性向上が欠かせません。
2.国際的な競争力の喪失
公益財団法人日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2022」によれば、日本の時間あたりの労働生産性は5,006円(49.9ドル)で、OECD加盟37か国中27位でした。「労働生産性の国際比較2020」はOECD加盟37か国中21位だったことから、2年で6位も順位が低下しており、1970年以降最も低い順位となっています。
工場といった製造業の労働総生産性は約91ドルで、OECDに加盟する主要35ヶ国中18位でした。2000年はOECD諸国でトップだったものの、2000年代になってから順位の低落が顕著であり、現在ではアメリカの6割弱で、フランスや韓国とほぼ同じ水準です。
このような状況を打破するためには、少ない資源で大きな成果を上げていく「生産性向上」が必要不可欠となっています。
工場が生産性を向上させる4つのメリット
生産性向上を行えば、投入資源の量・質を見直すことになるため、コスト削減が可能です。また、無駄な業務の削減や自動化を行えば、集中すべき業務に注力できるようになり、従業員のワークライフバランスを整備できるため、従業員の満足度が向上します。
ワークライフバランスが向上すれば、離職率を低下させられるため、人手不足対策にもつなげられます。生産性向上の施策で従業員のスキルが上がれば、対応の質が変わる他、ワークライフバランスの向上で従業員の余裕が生まれるため、顧客満足度も向上させられるでしょう。
工場の生産性を向上させるステップ
工場の生産性を向上させるためには、次の3ステップを踏むことが重要です。
- 分析・課題の整理
- 業務の洗い出し
- 生産性向上に向けた具体的な対策の立案・実施
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.分析・課題の整理
工場の生産性を向上させるためには、まず自社の現状を把握することが大切です。そのため、業務を可視化するとともに、現状分析を行って、課題点を整理しましょう。
課題点を整理する際は、担当者だけでなく、現場従業員の意見を聞くことが大切です。実際に現場で働いている従業員の意見を聞くことで、経営者・管理者の立場では発見できないような過剰コストを発見できる可能性があります。
2.無駄な業務の洗い出し
現状分析と課題の整理が完了したら、業務効率化も進めていきましょう。従業員が日々行っている業務の中にも無駄な業務や、非効率な業務が潜んでいるリスクがあります。
また、無駄な業務を洗い出す際は、特定の従業員に負担が集中していないか、複数の業務がまとめられていないかといったポイントも注視するようにしましょう。
3.生産性向上に向けた具体的な対策の立案・実施
生産性向上に向けた具体的な対策として次の4つが挙げられます。
- ツール・クラウドサービスの導入
- アウトソーシングの活用
- 従業員のスキルアップ・適切な人材の配置
- 無線の活用
それぞれ詳しくみていきましょう。
1.ツール・クラウドサービスの導入
近年は産業ロボットやRPA(Robotic Process Automation)、AIなど、業務を自動化できるツールが増えています。また、データを一元管理して情報共有しやすいクラウドサービスなども低コスト化が進んでいるため、工場の生産性向上に向けて、これらのツールを導入してみるとよいでしょう。
ただし、低コスト化が進んでいるといっても使用する従業員数や規模によっては、コストが大きくなるリスクもあるため、導入前にしっかりと検討することが大切です。
2.アウトソーシングの活用
アウトソーシングの活用を検討するのも1つの手段といえるでしょう。アウトソーシングとは、社内業務の1部を社外へ委託するサービスのことです。
近年は、営業事務やライティング・編集、データセンター、カスタマーサポートなど、対応できるアウトソーシング会社も増えています。アウトソーシング会社に依頼した方が、自社で業務をするよりも費用が抑えられる、業務の質・量が向上するという場合は、活用していくとよいでしょう。
3.従業員のスキルアップ・適切な人材の配置
従業員のスキルアップを行えば、業務の量・質の向上につながり、生産性を向上させられます。従業員にヒアリングを行って必要なスキルは何かを聞き出してみる他、日頃からスキルアップの意識啓発やフォローを努めて、スキルアップを意識する土壌づくりを行いましょう。
また、従業員のスキルや強み、これまでの実績などを鑑みながら、適材適所のポジションや部署へ再配置するのも生産性向上に有用な手段です。ただし、従業員の配置・再配置を会社が一方的に行ってしまうと、従業員のやる気を削ぐ事態になりかねません。
そのため、面談を実施して社員の要望を聞いた上で、従業員のやりがいやキャリア展望も考慮しながら慎重に検討することが大切です。
4.無線の活用
スムーズな情報共有が行えないことが原因で、生産性が低いという場合は「無線」を活用するとよいでしょう。無線を使用すれば、複数人に対して一斉連絡できるため、スムーズに情報共有が可能です。
ただし、無線は「特定小電力トランシーバー」「簡易無線」「IP無線」といった種類があります。種類によって特徴や通信距離が異なるため、自社の使用環境にあったものを選ぶことが大切です。
まとめ
生産性とは、インプットに対してどれだけのアウトプットを得られているかを計測するための指標です。工場の生産性を向上させられれば、インプットに対してアウトプットを大きくできるため、経営資源を効率よく活用できるようになります。
「少子高齢化」「国際的な競争力の喪失」が深刻化している現代の日本において、競争力の回復や今までと同程度の成果を上げていくためには、工場の生産性維持・向上が欠かせません。
業務課題に合わせて無線といったツールを活用しながら、上手に工場の生産性を向上させていきましょう。