無線を導入するメリットとは?各無線の種類や違いについて解説
無線とは、「無線通信」の略で、電波を使用して行う電気通信のことです。機器同士が同じ周波数で直接送受信できるため、携帯電話のように携帯回線のアクセス状況に左右されません。
機器同士の電波が届く範囲内であれば、回線の状況に左右されることなく安定した通信が行えるため、災害時などに適した通信機器です。ただし、無線には様々な種類があるため、無線の特徴によって、メリットも大きく異なります。
今回は無線の種類と各無線の特徴・メリット・注意点について紹介します。
無線の種類
代表的な無線の種類として次の3つが挙げられます。
- 特定小電力トランシーバー
- 簡易無線(免許局・登録局)
- IP無線
各無線の違い
ここでは各無線の違いについてみていきましょう。各無線の違いは以下のとおりです。
特定小電力 トランシーバー | 簡易無線 (免許局) | 簡易無線 (登録局) | IP無線 | |
最大送信出力 | 0.01W | 5W | 5W | 0.25WW |
免許・登録の有無 | 不要 | 免許必要 | 登録必要 | 不要 |
利用料金 | 不要 | 電波利用料(年間) | 電波利用料(年間) | 通信利用料(月額) |
市街地での通信距離 | 約100~200m | 約500m~1km | 約500m~1km | 携帯の電波が届く範囲 |
見通しのよい場所 での通信距離 | 約1~2km | 約5~10km | 約5~10km | 携帯の電波が届く範囲 |
フロア | 約1~4フロア | 約10~20フロア | 約10~20フロア | 携帯の電波が届く範囲 |
通信距離はあくまでも目安であり、通信する環境によって、通信距離は縮まってしまいます。導入する際はどれくらいの通信距離となるのか、しっかりとシミュレーションしておくことが大切です。
特定小電力トランシーバーとは?
「特定小電力トランシーバー」とは、送信出力が0.01W以下の小さな電波を使用する無線です。特定小電力トランシーバーは送信出力が小さい分、周りの電波に与える影響が少ないことから、免許不要で使用できます。
ただし、免許が不要な分、利用できる用途や機器の仕様などが総務省により明確に規定されているため、使用する際は注意しなければなりません。総務省の電波利用に関するホームページの「免許及び登録を要しない無線局」には以下のとおり記載されています。
3.小電力の特定の用途に使用する無線局
コードレス電話、小電力セキュリティシステム、小電力データ通信システム、デジタルコードレス電話、PHSの陸上移動局、狭域通信システム(DSRC)の陸上移動局、ワイヤレスカードシステム、特定小電力無線局等の特定の用途及び目的の無線局であり、次の条件をすべて満たすもの。
- 空中線電力が1W以下であること。
- 総務省令で定める電波の型式、周波数を使用すること。
- 呼出符号または呼出信号を自動的に送信しまたは受信する機能や混信防止機能を持ち、他の無線局の運用に妨害を与えないものであること。
- 技術基準適合証明を受けた無線設備だけを使用するものであること。
引用:総務省 電波利用ホームページ 免許及び登録を要しない無線局
特定小電力トランシーバーのメリット
特定小電力トランシーバーのメリットとして次の3つが挙げられます。
- 持ち運びやすい
- 免許が不要
- 稼働時間が長い
それぞれ詳しくみていきましょう。
持ち運びやすい
機種によって異なるものの、他の無線と比較すると、特定小電力トランシーバーは軽量かつコンパクトなものが多いです。
そのため、持ち運びやすいメリットがあります。
免許が不要
特定小電力トランシーバーは、送信出力が小さく、周りの電波に与えるリスクが少ないため、免許を取得する必要がありません。
免許を取得する手間がない分、購入直後から使用できるため、導入しやすいです。
稼働時間が長い
特定電力トランシーバーは送信出力が小さい分、電池の持ちがよいため、稼働時間が長いのもメリットです。
ただし、稼働時間や必要な電池本数は機種によって異なるため、購入前にどれくらい連続で稼働できるのかしっかりと確認しておく必要があります。
特定小電力トランシーバーの注意点
特定小電力トランシーバーの注意点として次の2つが挙げられます。
- 通信範囲が狭い
- 遮蔽物に大きく影響される
それぞれ詳しくみていきましょう。
通信範囲が狭い
送信出力が小さいため、他の無線と比較すると通信範囲が非常に狭いです。通信環境によっても異なるものの、通信距離の目安は市街地で約100~200m、見通しがよい場所でも約1~2kmといわれています。
通信範囲や通信の安定性を確保したい場合は簡易無線の導入を検討した方がよいでしょう。
遮蔽物に大きく影響される
送信出力が小さい分、遮蔽物に大きく影響されます。例えば、通信可能なエリア内だったとしても、フロアとバックヤード間など壁を隔てて通信を行う場合は通信ができなかったり、安定した通信が行えなかったりする可能性があります。
当然、他の無線も遮蔽物の影響を受けますが、特定小電力トランシーバーは他の無線と比較すると遮蔽物に弱いため、使用する際は注意が必要です。
簡易無線とは?
「簡易無線」は業務や個人利用を目的とした無線です。総務省の公式ホームページにある「簡易無線」ページでは以下のように記載されています。
簡易無線局とは、無線従事者資格が不要で、簡易(人命や財産に影響する通信は除く。)な業務又は個人的用務を目的とした無線局です。
引用:総務省 簡易無線
簡易無線の種類
簡易無線の種類として次の2つがあります。
- 免許局
- 登録局
それぞれ詳しくみていきましょう。
免許局
「免許局」とは、法人などが業務で使用することを目的としている無線です。登録局と比較すると周波数帯が区別されており、チャンネル数も多いため、混線がしにくく、電波が混みあっている環境であっても無線をスムーズに使用できます。
一方、免許局は業務目的のみの使用となるため、個人利用はできません。また、免許局を使用する場合は1台ごとに免許を取得しなければならず、使用者も免許を取得している組織の人間に限られます。
したがって、免許を取得している団体以外の人間は使用できず、無線のレンタルも禁止されています。免許の有効期限は5年間となるため、継続して使用する場合は有効期限満了前に再免許を受けなければなりません。
登録局
「登録局」とは、幅広い用途で使用できる無線です。免許がなくても高出力の無線を使用できる、レンタル無線としても貸し出しできるといった特徴があります。
法人・個人問わず使用できるため、業務目的だけでなく、レジャー目的で使用することも可能です。登録局の登録方法は無線1台ずつ登録する「個別登録」と、無線を2台以上一括して登録する「包括登録」があります。
ただし、個別登録と包括登録では、申請方法が若干異なるため、注意が必要です。また、登録の有効期限は5年間となるため、継続して使用する場合は有効期限満了前に申請を行い、再登録を受けなければなりません。
簡易無線のメリット
簡易無線のメリットとして次の2つが挙げられます。
- 出力が特定小電力トランシーバーの100倍
- 災害時に役立つ
それぞれ詳しくみていきましょう。
出力が特定小電力トランシーバーの500倍
特定小電力トランシーバーの送信出力0.01Wに対し、簡易無線の送信出力は最大5Wと特定小電力トランシーバーの500倍出力があります。そのため、特定小電力トランシーバーよりも広範囲のエリアを安定して通信できます。
また、送信出力が高いため、屋内外間や複数階間など遮蔽物を跨いだ通信であっても、そこまで距離が離れていなければ、比較的安定して行えます。
災害時に役立つ
災害時は携帯電話が不通になったり、回線にアクセスが集中して利用が制限されたりするリスクがあります。一方、機器同士が直接送受信を行う無線であれば、通信範囲内であれば、問題なく通信が行えるため、携帯電話のようなリスクはありません。
特に簡易無線は特定小電力トランシーバーよりも通信範囲が広く、安定した通信が行えるため、災害時の使用に適しており、業務内の連絡はもちろん、避難警告・命令を迅速に出して、スムーズな情報共有が可能です。
簡易無線の注意点
簡易無線の注意点として次の2つが挙げられます。
- 使用するには手続きが必要
- 免許局はプライベートでの使用ができない
それぞれ詳しくみていきましょう。
使用するには手続きが必要
免許局・登録局とも使用するためには、各種手続きを行う必要があります。また、申請を行い、免許状や登録状を取得しても、有効期限は5年間のため、引き続き使用するためには、再免許・再登録を受けなければなりません。
再申請せず有効期限が切れた無線をそのまま使用し続けると、電波法違反となり処罰の対象となるため、注意が必要です。それぞれの詳しい申請手順については、総務省の電波利用ホームページをご覧ください。
免許局はプライベートでの使用ができない
業務目的・プライベート目的での使用ができる登録局に対して、免許局は業務目的のみ使用が許可されています。
免許局はプライベート目的での使用はできないため、注意しましょう。
IP無線とは?
「IP無線」とは、携帯回線を利用した無線です。携帯回線を利用しているため、通信範囲が飛躍的に向上し、携帯の電波が届く範囲であれば全国で通信が行えます。
また、遮蔽物によって電波が途切れるリスクもほとんどないため、安定した通信が可能です。
IP無線のメリット
IP無線のメリットとして次の3つが挙げられます。
- 同時通話が標準できる
- 通信範囲が広い
- 免許が不要
それぞれ詳しくみていきましょう。
同時通話が標準できる
IP無線のメリットは同時通話が標準で行える点です。同時通話とは、送受信で異なる周波数帯を用いることで、携帯電話と同じ感覚でやりとりできる通話方法です。
一般的な無線は同じチャンネルを使用し、送信・受信を交互に行う通信方式のため、単身通話が基本であり、同時通話は行えません。同時通話無線であれば、同時通話が可能となりますが、単身通話である一般的な無線と比較すると通信距離が縮まるデメリットがあります。
IP無線は携帯回線を使用して通信を行うため、同時通話が基本であり、同時通話無線のように通信距離が縮まる心配がありません。携帯電話と同じ感覚で通信できるため、無線に慣れていない方でも使用しやすいといったメリットもあります。
通信範囲が広い
携帯の電波が届くエリアであれば、日本全国どこでも通信が可能です。特定のIPアドレスへ音声を直接送信するため、混信や遮蔽物の影響を受ける心配もありません。
そのため、高層ビルの低高層階間など、簡易無線でも通信できないような状況であっても通信できるメリットもあります。
免許が不要
IP無線は使用する携帯会社と契約すれば使用できます。
また、総務省の電波利用に関するホームページの「免許及び登録を要しない無線局」では、1W以上の無線を使用する際は免許申請が必要だと定めていますが、IP無線の送信出力は0.25Wです。
したがって、簡易無線のように免許・登録申請を行う必要がありません。
IP無線の注意点
IP無線の注意点として次の2つが挙げられます。
- 携帯の電波が届かないエリアだと通信ができない
- 携帯回線がパンクした際はつながりにくくなる
それぞれ詳しくみていきましょう。
携帯の電波が届かないエリアだと通信ができない
日本全国どこでも通信ができるIP無線ですが、携帯の電波が届かないエリアだと通信ができません。したがって、トンネルや地下、山岳地帯などでは電波が届かず、通信できないリスクがあります。
電波が届きにくそうな場所での使用を想定している場合は、携帯電波が届くかどうか事前に確認しておきましょう。
携帯回線がパンクした際はつながりにくくなる
花火大会など狭いエリアに人が密集するような大規模なイベントでは、携帯回線にアクセス集中し、つながりにくくなるリスクがあります。
また、災害時などでも同様な状態が起きやすいため、通信が行えず、救助活動に支障をきたす事態になりかねないため、注意しましょう。
まとめ
無線は「特定小電力トランシーバー」「簡易無線(免許局・登録局)」「IP無線」と様々な種類があります。そのため、無線のメリットといっても、無線の種類によって、メリットも大きく異なるのが現状です。
無線を導入する際は、各無線の特徴やメリット、注意点を理解したうえで、自社の利用状況に適したものを選ぶようにしましょう。