特定小電力トランシーバーのメリット・デメリット、
使用上の注意とは
特定小電力トランシーバーは無線機の中でも免許や登録が不要で利用しやすく、業務用だけでなくレジャーなどでも活躍しています。購入してすぐに使用できる特定小電力トランシーバーですが、必要な知識がないまま利用すると、故意でなくとも電波法に抵触する恐れがあります。
今回は特定小電力トランシーバーの基本的な情報やメリット・デメリットについて紹介しながら、電波法などに関する注意事項について説明していきます。
特定小電力トランシーバーとは
特定小電力トランシーバーは無線機の一種であり、トランシーバーの中でも比較的通信距離の短い無線機となります。
特定小電力トランシーバーの最大の特徴は、送信出力が小さく周りの電波を妨害するおそれが少ないため、免許や登録の必要がないという手軽さにあります。また電池の持ちが良く軽量かつコンパクトで扱いやすいため、他の機種と比較すると遮蔽物に弱いというデメリットはあるものの、総合的には導入しやすい無線機です。
特定小電力トランシーバーを用いた電波利用に関する規定
特定小電力トランシーバーは免許や登録が不要な分、利用可能な用途や通信内容、機器の仕様が総務省により明確に規定されています。
総務省の電波利用に関するホームページによると、「小電力の特定の用途に使用する無線局」は以下の通りです。
コードレス電話、小電力セキュリティシステム、小電力データ通信システム、デジタルコードレス電話、PHSの陸上移動局、狭域通信システム(DSRC)の陸上移動局、ワイヤレスカードシステム、特定小電力無線局などの特定の用途および目的の無線局であり、次の条件をすべてクリアするもの。
- 空中線電力が1W以下であること。
- 総務省令が定める電波の型式、周波数を使用すること。
- 呼出符号または呼出信号を自動的に送信する。また、受信する機能や混信防止機能を持ち、他の無線局の運用に妨害を与えないものであること。
- 技術基準適合証明を受けた無線設備だけを使用するものであること。
特定小電力トランシーバーを導入したい場合は、利用できる用途や周波数帯についてしっかりと確認しておく必要があります。
特定小電力トランシーバーと業務用無線機の違い
業務用無線機とは、業務で使用するのに適した無線機で、以下の用途によって分類されています。
- 一般業務用無線
- 簡易無線
- MCA無線機
- 航空無線
- 防災無線
業務用無線機の中で一般的に企業や団体で使われているのが「簡易無線機」「MCA無線機」「IP無線機」が挙げられます。
業務用無線機の通信距離は2~3kmですが、見通しの良い場所では約5km以上離れた距離での通信が可能です。出力が高く、屋内からでも十分に相手と通信できます。
とはいえ、業務用無線機を利用する場合には免許・登録が必要です。その点、特定小電力トランシーバーは免許や登録、開設届の手続きが不要です。コンパクトで持ち運びもしやすく長時間運用できるので、利用シーンに合わせて検討してみることをおすすめします。
特定小電力トランシーバーの通信距離
一般的な特定小電力トランシーバーの通信距離は、およそ200m前後とされています。なかには通信距離が約500m前後のものもあります。そのため、主な使用用途としては、飲食店での連携や小規模イベントの案内、レジャースポーツなどで連絡用として用いられています。
特定小電力トランシーバーと業務用無線機を比較してみました。
比較機器 | 特定小電力トランシーバー | 業務用無線機 |
出力 | 10mW/1mW | 5W/1W (5000mW/1000mW) |
通信距離 | 500m前後 | ~5km |
免許・登録 | 不要 | 必要 |
運用時間(最大) | 約30時間 | 約12時間 |
サイズ | 小さい | 大きい |
重さ | 軽い(100g~150gぐらい) | 重い(300g~500gぐらい) |
特定小電力トランシーバーを使うメリット
特定小電力トランシーバーを使うメリットとしては、以下が挙げられます。
- 免許や登録が不要
- 長時間運用できる
- コンパクトで持ち運びしやすい
1.免許や登録が不要
最大のメリットは免許や登録が不要です。本来は日本国内で無線電波を使用する場合には、混信を防止するために免許の申請や登録の届出が必要になります。とはいえ、電波の出力が小さく、他の通信の妨げにならないものに限っては、免許や登録が必要ないとされています。
特定小電力トランシーバーは、法令で定められた特定小電力無線局の電波を使用するため、免許や登録の必要がありません。開設届が不要なため、購入してすぐに利用できるのが、特定小電力トランシーバーの最大のメリットです。
2.長時間運用できる
特定小電力トランシーバーは出力が小さい電波を利用するので、消費電力が少ないのが特徴で、逆にトランシーバーだと電波が強いので、使える時間が短くなります。消費電力が少ないと、バッテリーの消費も遅くなるので、長時間の利用が可能です。
運用時間は機種によって異なりますが、単3乾電池1本で約30時間程度使用できます。1日中イベントなどで使う場合に、電池切れの心配がなく安心して利用可能です。
3.コンパクトで持ち運びしやすい
小さい電波を利用する特定小電力トランシーバーは、本体がコンパクトで持ち運びしやすいことも大きなメリットです。無線機の中でもトランシーバーは、受信器と送信機が一体型の構造になっています。出力が大きいと、それだけ送信機を大型なものにしたり、バッテリーの消費が早いので容量を大きくしたりするなどの対応が必要です。そのため、トランシーバー本体の大きさや重量に影響を及ぼします。
特定小電力トランシーバーは出力が小さい分、単3乾電池1本で済むので、本体がコンパクトになり持ち運びがしやすいです。
特定小電力トランシーバーを使うデメリット
メリットもあればデメリットもあります。特定小電力トランシーバーを使うデメリットは、以下の通りです。
- 通信距離が短い
- 遮蔽物の影響が大きい
1.通信距離が短い
特定小電力トランシーバーは出力の小さい電波を利用するため、他の無線機と比べ通信距離が短いことがデメリットです。使用環境にもよるが、およそ200m前後から500m程度です。ビルが多い市街地などでは、100m程で通信できなくなることもあります。
2.遮蔽物の影響が大きい
もう一つのデメリットは、遮蔽物の影響を受けやすいことです。電波が微弱なので、コンクリートの壁などの障害物があると電波が届きにくくなるなど、場所によっては使えない場合もあり、不向きです。また、屋外と屋内などの通信や、フロアが離れすぎると、短い距離でも電波がつながりにくくなることがあります。
特定小電力トランシーバーを使う場所に合うか合わないか不安な場合は、あらかじめデモ機などを利用して、実際と同じ環境でテストをおすすめします。
特定小電力トランシーバーの活用例
特定小電力トランシーバーが実際にどのようなシーンで活用されているのかについてご紹介します。
- ビジネスにおける活用例
- アウトドア・レジャーにおける活用例
ビジネスにおける活用例
道路工事における誘導や交通整理の連携
道路工事や交通整備など比較的見通しの良い場所で、業務内での連絡や作業員同士の連携を取るために特定小電力トランシーバーが使用されています。
例えば、道路工事の際にはカーブや人通りが多い場所では死角が生まれる場合もあり、工事場所付近での交通事故が発生しやすくなります。そのような場合には、死角となる場所に特定小電力トランシーバーを装備した人員を配置することで、交通状況をスムーズに連携することができ事故の発生を未然に防ぐことができます。
飲食店におけるホール・キッチンの連携
飲食店ではキッチンからホールとの業務連絡や連携を取るために特定小電力トランシーバーが使用されています。
同じ建物内でホールとキッチンの距離がそれほど離れておらず、少人数でとりあえずトランシーバーを導入したいという場合には、免許や登録が不要な特定小電力トランシーバーが重宝されています。
イベント会場におけるスタッフ同士の連携
来場者が多く人が密集するイベント会場では、スマートフォンの通話機能やトランシーバーアプリが使用できないことも多いため、スタッフ同士が迅速な連携を取るために特定小電力トランシーバーが使用されています。
来場者が多くなることが想定される場合は、トランシーバーを導入しておくと入場整理や非常事態の場合もスムーズに状況共有ができ、事故の発生を予防し、被害の拡大を防ぐことができます。
アウトドア・レジャーにおける活用例
近年「サバゲー」といわれるサバイバルゲームがはやり、携帯電話で会話するよりも無線で会話したほうが連絡が取りやすく活用されています。さらに、キャンプ場や登山、ハイキング、アウトドアの趣味に特定小電力トランシーバーを利用する方も増えてきました。
山間部などでは携帯電話が圏外になる場所が多く、いざとなった時に使用できないとなると不安です。そんなときに活躍するのが特定小電力トランシーバーです。トランシーバーは電話回線を使用しないので、安心して利用できます。
また、携帯電話の場合一人ひとりに連絡を取らなければいけなく、手間になってしまいます。その点、無線機を使えば一斉に発信することができるので、手間がなく連絡を取ることができます。
特定小電力トランシーバーを使用する上での注意点
免許や登録がいらない特定小電力トランシーバーですが、使用する上での注意点があります。
- 他人の通信との混信
- 電波法に抵触する機器に注意
他人の通信との混信
特定小電力トランシーバーは、近くで他の人が特定小電力トランシーバーを使用していると、偶然チャンネルが合ってしまった場合に、混信してしまう可能性があります。混信とは、同じ周波数で通信をする際に、他人の通信を傍受してしまうことです。特定小電力トランシーバーは異なる機種であっても、周波数が422.0500MHzであれば「チャンネル01、02」というように周波数とチャンネル表記が共通していることがほとんどです。
他人に通信を傍受されないように、一緒に使う相手以外にチャンネル(周波数)番号を漏らさないようにしてください。また、混信に気がついたらなるべく離れたチャンネル番号に設定し直してから通信を行うようにしましょう。とはいえ、混信は偶発的に起きる問題なので対策が難しいのですが、前もって周囲に無線機を使用している人がいないかどうか確認してから使用する方法があります。
電波法に抵触する機器に注意
特定小電力トランシーバーを使う場合には、以下のような行為は電波法違反となる恐れがあります。
- 技適マーク(技術基準適合証明)のない機器の使用
- 技適マークのある機器を改造する
- 改造された機器を使用する
電波法とは、無線通信の混信を防ぎ、電波の効率的な利用を確保するために必要な法律です。電波はスマートフォンや携帯電話、テレビ、ラジオ、警察、消防などさまざまな場面で活用されています。この電波を公平かつ能率的に利用を確保するために必要な法令です。
免許や登録が不要な特定小電力トランシーバーは、購入したその日から通信を行うことができます。しかし、他の無線機と同様に電波法でその技術基準が定められており、これに適さない機器を使うことは電波法違反となるため注意が必要です。
海外製品の無線機についても技適マークのついたものによる通信は正当ですが、海外製品だと日本の電波法が定めた規格と異なる可能性があります。米国基準の機器は日本国内では違反となるケースもあるので気をつけてください。
また、技適マークのついた機器でも改造すると技適マークの効力がなくなり、改造した時点で違法機器となってしまいます。購入する前に必ず技適マークがついているか、確認して購入するようにしてください。
対処法としては海外の通販サイトや個人が運営しているサイトでは、違反のリスクがありますので、信頼できるメーカーや通販サイトから購入するようにしてください。
電波法に違反した場合は、故意でなかったとしても1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処せられます。
まとめ
特定小電力トランシーバーは免許や登録が不要で、長時間使用できるので電池の交換をする手間が省けます。また、コンパクトで持ち運びしやすくアウトドアなどのレジャーで使用する方も増えてきました。
購入したその日から通信ができる特定小電力トランシーバーですが、海外から購入するなど製品機器によっては電波法に抵触する恐れがあります。信頼できるメーカーや通販サイトから購入するなどの対処をするなど、注意が必要です。